一般社団法人 『データで考える力』イニシアティブ

第8回:狭義のトライアンギュレーションとしての質的研究法と分析前データ解釈における統合アプローチについて

 質的研究の網羅性について質的研究の学派を以下に列挙するが、

    1. グラウンデッド・セオリー
    2. エスノメソドロジー(会話・ディスコース分析・ジャンル分析)
    3. エスノグラフィー
    4. カルチュラル・スタディーズ
    5. ナラティブ分析とバイオグラフィー研究
    6. ジェンダー研究
    7. 現象学と生活世界分析

上記の3つを重ね合わせることで、ビジネスへの応用ができるのではないかと考えた。

    1. グラウンデッド・セオリー
    2. エスノメソドロジー(会話・ディスコース分析・ジャンル分析)
    3. エスノグラフィー

 これらこそが質的研究法のトライアンギュレーションであると私が考えた。

 エスノメソドロジーとは、日常的行為を明らかに合理的であらゆる実践の目的に報告可能なものとする、日常活動の組織化として説明可能な方法として分析をすることで、現象の相互反映性に関する実践的行為、実践の場、社会構造に関する常識的な知識、実践的な社会学的思考の性質を持ったものである。
 日常的行為やその遡行、さらにそういった行為が遂行される際に、領域密着的な文脈の構成に関心を寄せることがエスノメソドロジー的研究の特徴となっている。

 エスノグラフィーは観察と参加を組み合わせて用いられる。また、方法論的な原則や実施の段階を具体的に定義して定式化するよりも、一般的な調査の姿勢をフィールドで実践することがより優先される。
 特に、社会的現象に関する仮説を検証することよりもその性質を探ることに力点が置かれ、構造化されていないデータを扱う傾向があり、データ収集の段階で既存の分析カテゴリーのセットを用いてコード化されていないデータが扱われる。
 人間の行為の意味と機能に関する明確な解釈を含んだデータ分析であり、より研究結果は定量的な分析よりも、より記述的で説明することに重き置かれる。

 上記2つのアプローチは、融合されたメソドロジーとしてすでに社会学的な研究法の中で論じられてきたことであり、それは日常的であり、狭い社会構造の把握やフィールドワークを実践とした質的な研究法である。つまり、ビジネスでの応用の過程において、グラウンデッドセオリーアプローチで使われるコード化とカテゴリー化をさらに加えていかに実践していくかが、トライアンギュレーションとしての成果が出るのではないかと考える。

 ここでオープンコード化から軸足コード化、選択コード化への詳細な説明は省くが、コード化で現象や事象をカテゴリーで分類し構造の関係性を可視化していく中で、データ収集時のデータ解釈が実践されうる。そう言った際に理論的コード化によって理論が最終的に構築されていき、ビジネスの現場での現象把握ができる訳である。

 Big Data の再定義で考えた5つ目の Value で論じ始めた4つの Data を、この分析前のデータ解釈で用いることが大事であると思っている。

Big Dataを再定義「4V」から「4D」へ

1. Small Data

 Big Data との比較ではなく Large Data との比較で論じたいのだが、そもそも Big Data を Large Data と勘違いしている人が多いことをまず述べたい。次に、データのサイズや量が多ければより多くの知見が得られると勘違いしている人も多い。この前提となる出発点の理解を得るためにこの Small Data によって得られる知見を重視し、ビジネスの現場において仮説検証型の定量分析を行わずとも意味のある「記述的」なデータ解釈が探索的に見つけ出せる訳である。

Small Data

 これによって、データ解釈のプロセスでより説明的か記述的かを切り分けることが大事であると言いたい。これは具体的なビジネスの現場ではよくあることであり、人から聞いた儲け話や、どの会社からものを買うとより安く買える、といった日常知の当たり前の言説がそこにも入る。ただし、これらを逆に Small Data としてわざわざデジタルデータとしてデータベースに格納することをしている企業は少ないと思われる。つまり、こういったより記述的であるデータ解釈による方法がビジネスでは求められる訳である。(これについての適切な対処はすでにコンサルテーションで実践されているが、ここでは省略させていただく)

2. Thick Data

Thick Data参考画像

 上記の引用画像* にある通り、Big Data とは異なる性質のデータが存在しているということを理解した方が良いことを述べたい。特に数値化しづらい文脈判断に含まれる社会的背景や文化的価値観などの行為や行動を表すインサイトがそこに該当する。はっきり言ってしまえば、企業文化がそれにあたる。
 つまり、企業の DX を推進するためには、この部分のデータ解釈ができないと効果的な企業経営における判断業務が的を得たものにならないと言える。

*参照:「Why Big Data Needs Thick Data」(Tricia Wang – Jan 21, 2016)

3. Various Data

 Various とは “様々な” という意味であるが、ここでは、列志向データベースというアーキテクチャがあるが、これを活用できていないことが多いということも指摘したい。そもそも、列項目の右方向にデータが増えていくという事象が何を意味するのかをわかっていない人間がデータ解釈やデータ分析を提案していることが多く見受けられる。

 列項目を足していくという活動が分析前データ解釈において、データ収集から分析をしていく手前の活動として非常に重要な意味を持っている。これについては、Big Data=Various Data と言いたいくらい、本来の Big Data の存在意義、つまりオントロジーアルゴリズムにも関わってくるような大事な概念であると考えている。
 深い議論をしすぎると理解しにくい言説になってしまうため、ここでは以下のデータ自体の分類をするための知識を提示するにとどめる。

4つの尺度基準

 データを4つの尺度基準で分類することができる。
 分類ができるというよりも、必ずすべてのデータはこの4つに当てはまるため、ここから最後のデータ解釈のための指標に戻る。

4. Qualitative & Quantitative Data

 定性的と定量的データという和訳があるが、質的データと量的データと区分けできるデータである前述した4つの尺度基準に照らし合わせれば、そのデータは質的変数であり量的変数であるデータである。つまりは、質的研究とは、この名義尺度をいかに質的研究法である意味解釈法で分析前のデータ解釈を実践していくかが重要であり、構造化されたデータベースに入り込んでいる質的変数のデータをそのまま分析したところで、知見が得られにくい原因にもなっている元凶であると言える。


 ここまで見てきたデータ解釈に必要な分類軸は、尺度基準だけの分類軸ではなくメタデータと呼ばれるカタログデータなどの軸もあり、データの構造体の話になっていく。それは質的研究法で用いられた意味を解釈する意味解釈法によるデータ解釈がなされる際の情報や知識への橋渡しの方法論理論であり、そこを深掘りしていかないことには、この Big Data の再定義後の活用方法を見直すことに繋がらない。
 本コラムはここで言説を止めておくが、記録情報学としての知見を融合させることでこの辺の対処方法が見出せることを、今後は述べていきたいと思う。

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