一般社団法人 『データで考える力』イニシアティブ

第1回 : 研究法の新潮流とデータ社会時代の要請

1. はじめに

 研究法における解釈的研究の動向は、今日までに人文科学の研究の中で特に多くの研究成果をもたらす為の方法論として進化を遂げてきたと言える。これらは主に心理学、社会学、さらには人類学などを中心に人間の心理的意味解釈を行い、それを社会や世界に拡大した人間の主観的な解釈のシステムを構造的に捉える為により質的な分析を展開しながら各研究領域と共に発展してきた経緯がある。データ社会の時代到来に向けて、よりデータ社会における解釈的行為が重要性を増してくるものと考えられる。

 また、研究法には3つの方法論が大きく存在する。1つは数理演繹法と呼ばれる数学的な理論により、定量的な分析のもととなる数式に基づく変数を使って演繹的に説明変数から結果変数を割り出して行く実証主義や定量主義に紐づく所謂サイエンスと呼ばれる領域の方法論である。2つめは統計帰納法と呼ばれる統計手法を用いて、多くの事実や真実の中から統計的妥当性を検定しながら因果法則などの関係性を導きだして行く方法論である。3つめとして、本著のタイトルにもある解釈的な研究である意味解釈法と呼ばれる方法論がある。本著では意味解釈法の方法論の必要性や学術的な定式化を図りながら、一般的に「科学的な研究法」と思い込まれている上述2つの数理演繹法と統計帰納法との関わりや Mixed Method Approach (混合研究法) と呼ばれる新たな研究法の流れの中で、定性的な分析と定量的な分析との「トライアンギュレーション (三角測量)」と呼ばれる手法を広義の意味で拡大解釈して、もともと社会学の領域の中で進化してきたこの方法論を解釈的研究の中で、文字通りトライアングル (三角形) の頂点に置いた研究法として再定義していくものとする。

 まずは研究法とはそもそも何かということを述べつつ、トライアンギュレーションの新たな手法による3つの研究法をミックスさせ、具体例を交えながらケーススタディとして自身が研究している経営情報学の研究領域を題材に今後の研究法を使った研究の同行を検討し、今後の研究のあり方を論述する事を目的としている。

2. トライアンギュレーションとは何か?

 狭義のトライアンギュレーションの定義は以下の通りである。(佐藤郁哉(2015)「フィールドワーク」を参照) トライアンギュレーションとは、研究者が研究対象に対して異なる視点 (複数の手法、複数の理論的アプローチを組み合わせること) によって具現化される。また、異なった種類のデータを組み合わせることもその意味に含んでいる。結果的に単一のアプローチではない知見が得られることが多く、研究の質の向上に貢献できるものである。また、戦略的トライアンギュレーションのための視座として以下の視座を持つべきであると考えられる。

  1. データ
    1. 時間
    2. 空間
    3. ひと
      1. 統計上の集合
      2. 相互作用
      3. 社会的集合体
  2. 理論
  3. 調査者
  4. 技法
    1. 技法内
    2. 技法間

また、デンジンが述べているトライアンギュレーションの類型論においては以下の4点を考慮に入れて研究を進めるべきであるとしている。

  1. 研究課題の特質を検討し、研究対象についての技法を吟味する
  2. 特定の技法による強み弱みの理解
  3. 技法の選択に対する理論的な視座の理解
  4. 研究計画はアジャイル的な手法で研究対象へのアプローチを柔軟に変える

上記の観点から大きな枠組みとして、「研究法」自体のトライアンギュレーションを提唱したいと考える。

3. 混合研究の中でみられる定性的と定量的の2つの分析手法とトライアンギュレーションの関係性

 混合研究法におけるトライアンギュレーションは混合研究のデザインの1類型として存在し、そのほかに埋め込みデザイン、説明的デザイン、探求的デザインと計4類型があるとされている (J.W.クレスウェル) ただし、本コラムにおいては解釈的研究法の研究を新たなに組み合わせとして定性と定量が合わさった研究技法である前提であるために、そもそも定性的と定量的を順序性やタイミングの観点では類型化しないことをここでは述べておく。ただし、研究法の新潮流としての流れを把握するためにはとても重要な分析の関係性であるために2つの分析手法がそもそも存在していることを認識することはとても大事であると考える。

4. 人文科学、社会科学、自然科学の3つの学問的領域から抽出された研究法を適切に適用する方法論の確立がなされるべきであると考える

 3つの研究法と対になる3つの科学的学問領域をトライアンギュレーションという研究法の大きな枠組みで捉え直すことによって、とくに意味解釈法による解釈的な方法論を数理演繹と統計帰納で関係性を定義することによって、よりリアリティのある研究結果が得られるものと確信している。

5. データリテラシーとしての5つの視点

 キーワードとしては、

 「1つの研究サイクル」
 「2つのデータ解釈」
 「3つの研究法のトライアンギュレーション」
 「4つの尺度基準」
 「5つのビッグデータ再定義」

と、今後5つの視点でコラムを継続していきたいと考える。

むすび

 本コラムでは、研究法の新潮流として、解釈学というものを研究法という視点でデータ解釈学として見直すこととする。もともとは相対主義的アプローチという考え方が、1980年代にあった。 現象学、主観主義、実存主義と関連があり、サイエンスにおいては、経験主義、実在論、定量主義が規範であった時代である。

 認知的相対主義の考え方 (真理の評価) が個人や集団の概念的枠組み、もしくは判断の文脈によって意味が変化する。「実証主義/経験論者 v.s. 相対主義/構成主義者」の関係性においては、実証主義は、データは理論を検証するための客観的、独立的基準と考えられていて、かたや相対主義は、データは理論の多様性の観点から研究者がつくり、解釈するものと考えられていた。当時は、対立概念としての方法論的視点に基づく見解であるが、2000年代以降の混合研究法における、質、量のデータアプローチを鑑みれば、両面ともに研究法のなかにそれは尊重すべきであると考える。

 また、データ社会に向けて、これまでの研究法をトライアンギュレーションしていく工夫が必要で、研究者にとっての研究対象をどう研究していくかというテーマを1つの研究サイクルからみた理論、モデル、コンセプトを如何にデータから解釈し、インサイトから得られる知見をビジネスなどに活かしていくことが今後求められると考えている。その際に、データリテラシーという新たな視座によって、物事の分析や判断をしていくことがより重要なアクションになると申し上げたい。


Appendix.

 研究とはなにかと問われると、極論として、分類して、推論して、解釈する、だけであると断言できるし、それを伝えたいと思う。つまり、分類をGTAによるコーディングで行い、事前、事後の分布確率による確信度の再分配の数学であるベイズ推論によって、原因と結果変数の可能性を厳密に定義して、意味を解釈するという方法論がトライアンギュレーションの方式を採用を世に広めようと思うモチベーションである。

 そんな方法論の適用概念も本コラムでの研究テーマになり得ると考える。

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