一般社団法人 『データで考える力』イニシアティブ

第7回 : 研究リテラシーのビジネスへの応用について学ぶ

 研究とは何かを考える時、研究対象に思いを馳せ、先行研究を行い、自分がテーマと定める研究領域に対して全力で生涯をかけて研鑽を積んで、学術的な世界で研究活動を実践していく研究者になるために研究リテラシーを学んでいくもの、と通常は考えられている。

 それに対して、私自身がデータビジネスの世界で、データ分析を行うためのデータマネジメント基盤のシステム構築や機械学習モデルの構築プロジェクトを実践していくときに、ふと気づいたことがある。
 そもそも研究対象となるものがビジネスそのもので、研究者が追い求める理論構築をビジネスに応用できたら、それは素晴らしい成果を出すのではないかと。

 そういった意味で、研究リテラシーとは何かを考えながら、研究者が普段自分の研究領域に対して追い求めていく研究法やそれにまつわる概念を知識として理解した上で、ビジネスへの「読み書きそろばん」の適用概念を考察していくこととする。

  1. 科学的な研究とは何か。3つの方法論としての研究法(分類・推論・解釈)を学ぶ
    • 研究が実証主義と解釈主義の対立概念があることを学ぶ
    • 3つの研究法とトライアンギュレーションを理解して学ぶ
    • 定性と定量の研究法があることを理解して学ぶ
  2. 研究サイクルの理解とグランドセオリーとグラウンデッドセオリーの理論構築における違いを学ぶ
    • 理論がどのように形成されていくかを学ぶ
    • 領域密着理論が仮説検証型の実証主義的な科学的研究法とは異なるアプローチであることを学ぶ
    • データ分析後解釈ではなく解釈主義的な科学的研究法の中で、データ解釈することの意義を学ぶ
  3. グランンデッドセオリー(領域密着理論)において、仮説検証型の研究ではないデータ解釈の方法論において、混合研究法で言われている定性と定量のデータ分析を解釈主義的な研究法である意味解釈法の中でデータ解釈を実践していくことがビジネスへの応用につながることを学ぶ

 第2回のコラムで以下について述べたが、

「1つの研究サイクル」
「2つのデータ解釈」
「3つの研究法のトライアンギュレーション」
「4つの尺度基準」
「5つのビッグデータ再定義」

これらのテーマを以下の点で理解していくことが大事であると言いたい。

 これらを踏まえて、科学的なアプローチである研究リテラシーをどう自分なりに落とし込んでいくかを実践していくことが大事である。
 研究とは何かに立ち返って考えて大雑把に捉えると、研究リテラシーとは、

「分類」
「推論」
「解釈」

を組み合わせた研究メソドロジーによって成り立ってると考えることができると思う。

 つまり、観察した事象や現象などを以下に意味づけを行いながら分類し推論していくことが大事であり、分類学として体系化されている方法論を実践していくことが重要であると考える。
 ただし、生物の示す複雑性の一つ “種多様性(Species Diversity)”を研究し理解する学問が分類学の起源であるが、短絡的にその方法論を継承しろということをここでは述べていないことを注意してほしい。また解釈学に関しても、もともと聖書や古典文献における解釈技術を意味するものであったが、当然そちらも言わずもがなである。

 分類や解釈をこれまでの学問領域の中で限定的に使うのではなく、学際的な学問領域の横断化のために使うことが大事であると、私はここでは述べたい。
 そうすることで学問が学問たるための厳密なる定義や方法論などからかけ離れてしまうという恐れがあるのかもしれないが、ここでやっと本題に近づく本質を述べることができるのである。
 つまり、ビジネスへの応用とは学問が学問であるための方法論ではない、ということである。

 ここで大事になって来るのは、推論であり、人間がどのように思考するか、ということである。
 人間がAIに取って代わられる存在だと言われ始めている中で、この3つの研究リテラシーとしての流れをどのように選択するかについて、コンピュータやロボットがそれを「解釈」するのはまだまだ先の話だと私は思いたい。(とはいえその解釈性もまた人工知能に置き換わってしまうのかもしれないが…)

 当然、機械学習の推論エンジンやアルゴリズムによって、この推論部分を自動化、法則化、数理演繹化を図っていくことができているためにビジネスでの応用が進んでいることも事実であるが、一般社団法人データで考える力としては、この考える力というものをまだまだ人間の力として発揮してもらうための活動をしていきたいと考えているので、ここを深掘りさせてもらいたいと考えている。

 推論を「分類」してみると以下のような推論が存在する。

「演繹的推論」
「帰納的推論」

 これら演繹法と帰納法による推論の思考法は、結論の求め方は異なるがさまざまな場面で役に立つ方法で、演繹法はルールや法則に基づく物事に当てはめて結果を導き出すものだが、帰納法は複数の事実や事例から共通点を導き出し一般論となる結論にたどり着くための方法論である。

 実はこれ以外にも、

「遡及的(アブダクション)推論」

という、遡及推論(リトロダクション)とも呼ばれる、結果から遡って原因を推測する推論がある。
 帰納法が観察可能な事象を一般化するロジックであるのに対し、アブダクションは(多くの場合)観察可能な事象から直接観察することが不可能な原因を推論するロジックである。

 これをもう少し本コラムの話に沿って「解釈」していくと、統計的にすでに結果が出ている散布図などの統計データから帰納的に推論するのでなく、すでに法則的に導かれたフレームワークやルールなどのアルゴリズムに基づいて導き出されるシュミレーションツールなどからの結果を求めるのでもない第3の推論的思考法があることを学ぶ、ということが大事である。

 ここからはすごいビジネスの世界で当たり前のことを述べていくが、当然ながら結果の出ていない事象や現象をどう如何に思考してイノベーションを起こすようなビジネスモデルを考えたり、経営的な課題に対しての戦略的な方策を立てていくことは、平たくいうと演繹的推論や帰納的推論だけでは全く意味がないとは言わないが不毛な議論になり得るため、理想となる結果を目的志向で仮説として導き出しつつもこれまでの演繹的な推論と帰納的な推論を駆使して、遡及的推論であるアブダクションの精度をあげるための領域密着型の理論形成を図る、というのが結論である。
 データで考える力を推し進める組織の代表理事としては、もう少しデータで考えられることとデータで考えられないことを分類しながら解釈していく、というメソドロジーが大事だとも言える。

 話を研究リテラシーである分類、推論、解釈に戻していくと、これまでのコラムで述べてきた概念形成を成し遂げるための方法論であるGTAやデータ解釈によるベイズ統計の事象や現象の確率分布の分配予測を統計的な推論で導き出しつつ、その事象や現象の変数である数理モデルをMCMCのようなパラメータ推定によって、演繹的な推論エンジンとして絶え間ない方法論としての数理モデルを改変し続けることが大事だとも言っている。

 つまり、ビッグデータの再定義で述べている、

「Small Data」
「Thick Data」
「Various Data」
「Qualitative&Quantitative Data」

を領域密着理論を構築するためにどう活用していくか、ということが問われるのである。

 これらのデータをどう利活用していくかは今後のコラムで書いていくこととする。

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