みなさん、こんにちは。トレンド・トラップの竹之内です。
最近は一般のビジネスマン向けのセミナーでは「今日は数学、数式を使わずに統計分析の考え方を説明します」 と冒頭で述べると、みなさん表情が明るくなりますね。このコラムでは少し数式の説明をしていきますが、みなさんに興味を持っていただけるように、スポーツの話から入りたいと思います。
ものごとの勝敗がシロ・クロはっきりついてしまうスポーツの世界では、すでに選手の筋力データでトレーニング方法を組み立てたり、敵チーム選手の動きをデータ化し戦術を組み立てたりすることが常識化しつつある。
映画『マネーボール』を思い出してほしい。
ブラッド・ピットが演じるビリー・ビーンは、野球選手を引退後オークランド・アスレチックスのゼネラル・マネージャーとなる。しかし、財政が苦しいアスレチックスでは、せっかく育てた有望選手を強豪球団に引き抜かれるという事態が続いていた。チームの立て直しを図るビリーは、統計データを使って選手の将来的価値を予測するというセイバーメトリクス (Sabermetrics) なる野球選手を評価する指標≒KPI指標 (キーパフォーマンスインジケーター) を導入。
貧乏球団が勝ち上がる実話を取り上げている映画だ。
セイバーメトリクス (Sabermetrics) では、たとえば打者が創出した総得点を「XR (extrapolated runs)」という指標で定量化する。
XR=0.5×単打+0.72×二塁打+1.04×三塁打+1.44×本塁打+0.34×(四球+死球-故意四球)+0.25×故意四球+0.18×盗塁 -0.32×盗塁死-0.09×(打数-安打-三振)-0.098×三振-0.37×併殺打+0.37×犠飛+0.04×犠打
XRは打者が創出した総得点。
XRが50ならその打者が得点50を生み出したということであり、松井秀樹選手はNPB在籍10年ながらXRで計算するとNPB歴代10位につけている。しかし、他の選手と得点力を比較するにはもうすこし工夫が必要で、
XR27 = XR÷(打数-安打+盗塁死+犠打+犠飛+併殺打)×27
これ「1番から9番まで同じ選手で打線を組んだら、一試合で何点稼げるか?」を表しています。
打数で割って、最後に×27を実行するので、27打席あたえると・・・っていう感じでしょうか?イチローが1番から9番まで繰り返し打ったら、一試合で何点稼げるか?みたいなモノサシのこと。
要は、単純に比較可能な指標を設定し、大リーガーの力量をデータで裏付ける工夫なのだ。
私は、日本のビジネス界にもこのような「単純化したモデリングや指標化」と「データで裏付ける」工夫がもっと普及すべきだと感じています。
たとえば、日本のセールスマンやコンサルタント、設計者にもXRがあってもよいのではないかと思うのです。
セールスマンとしてみれば、私は最大で80億円のビジネスを受注したことがあります。でも25年間で一回だけ。
こうして思い返すと・・・一ヶ月≒23営業日で何回の商談アポを取り、何回提案書を提示、プレゼンして、いくらの金額を受注したかを重回帰分析するとセールスマンの得点力≒受注力がハッキリするだろう。
要は、アホに見えて、規律を守らない(毎朝遅刻するは・・定時連絡はしないは・・)で、低年俸のセールスマンのXRが品行方正で、立派な営業課長と同じレベルだったら・・・どうしますか?
無口でパソコンや実験器具としか会話しない設計技術者の特許出願件数と、その特許が応用され製品化された件数や製品の累計売上高がXRに換算されたら・・・どうですか?
温厚でバランスのよい技術部長のXRがさんざんであったら・・・・どう思われますか?
スポーツの世界に比べれば、ビジネスの世界では相変わらず属人的アナログの判断が多いように感じるのはわたしだけでしょうか。
21世紀になってもビジネスの世界は、まさに経験と勘とドキョウだ。日本企業を取り巻く環境が安定的で、過去の成功パターンが通用するのであれば『勘と経験とドキョウ』が最もおおきな力を発揮します。
ビジネス世界の指標「勘の良い人には見えるパターンがある」
しかし、リーマンショック以降は環境変化が速い上に大震災という自然災害にも遭遇してしまい、日本企業は経験だけではいかんともしがたい状況におかれているのではないでしょうか?
そんな時には「直面する問題を単純化し、指標化、モデリングし」「論理的なフレームワークを使い」「データの裏付けをとる」という思考プロセスが大きな威力を発揮します。
論理的にモノゴトを考える際には、演繹的に考えるパターンと実際に起きている現象や現場データから帰納的に考えるパターンの両面が重要です。
とりわけ昨今では、インターネットやスマートフォンが生活に浸透してきた結果、私達の普段の生活はおどろくほどデータ化されています。
Twitterやfacebookには立寄ったレストランの名前、住所、写真が記録され、その際に一緒に食事をした友人の名前、プロフィールなどが一瞬で紐ついてデータ化されています。早朝や夜にランニングした走行距離や経路がごく自然に記録され公表されています。
実際には2.5EB (エクサバイト) もの大量データが日々生成されています。しかも、既存データの90%はここ数年以内に生成されたものです。ビッグデータといわれる所以はこのあたりにあるのです。
私達がコンビニで買い物をすると、ICタグなどのセンサー付きの通い箱で運ばれてきた弁当やサンドイッチがTカードなどの個人情報とともにPOSレジを通過し、Twitterなどのソーシャル・メディアにツブヤイた言葉がランキングされ、インターネット上に保存されたデジタル写真、ビデオ、アマゾンやZOZOタウンなどのオンラインショッピングの購入履歴レコード、携帯電話のGPS信号など、さまざまなソースで生成されています。
このようなデータを総じて “ビッグデータ” と呼んで、ビジネス活用が進んでいます。
本来データには、勘のよい人には見えるパターンがあります。
2つ以上のモノに数量的な法則性や共通のシグナルがあるとわかれば、パッとみえたような気がする。
変化の波が大きく顧客ニーズの移り変わりも速い現代を生きる我々は、直感と事実データを照らし合わせ、”デジタル勘” を鍛えてこそチャンスをモノにすることができる。
ビッグデータという名の大海を泳ぐすべを学び、パターンやシグナルをつかみ取れるようになれば、「効率と低価格」に溺れずに、付加価値とチャンスをモノにできるでしょう。
ここには、2つのポイントが隠れています。
- 問題解決のプロセスとしてビッグデータを活用するには、直面する問題を単純化し、モデリングし、論理的な指標化・数式化を行い、データで裏付けるプロセスが定石となる
- さらに、論理的なフレームワークの中で演繹+帰納法の両面からの思考プロセスを踏まえたデータ分析が必要になる
ちまたには「問題解決」や「プレゼン」をテーマにした本が書店をうめつくしている。
しかし、統計センスやデータ分析力の観点から本当に価値あるアクションを導くという「結果をだす為の」ロジカル・シンキングや統計思考力やデータ分析力を解説したものは少ない。お客様の問題を解決する提案書やプレゼンは採用されるか否かで勝敗がハッキリしているのに・・・。
もっと踏み込んで云えば、ロジカル・シンキングにはモデリングや単純化したビジネスモデルが必要なのだ。
『あ〜なれば、こ〜なる』といった単純化したモデルに対してデータの裏付けを伴うロジカルなルールを当てはめてこそ威力100倍なのだ。
逆にビッグデータを大量高速処理すれば、(ロジカルなフレームワークがなくても)そこから帰納的に新発見があるというのも楽観的すぎる誤解だ。
次回は、小手先のハウツーやテクニックよりは、基本にたちかえって結果をだすための統計思考力、データ分析力に絞って紹介したいと思います。